災害支援から始まった「援農」という挑戦
朝倉で育む、ふたりの暮らしと未来
2017年の九州北部豪雨をきっかけに、朝倉との縁が深まった重松良輔さん。災害ボランティア活動から農業へと歩みを進め、現在は杷木地域を中心に「重松農園」を営んでいます。柿やサツマイモを主軸に、地域や学生と協力しながら“みんなで作る農業”=「援農」を実践。そんな良輔さんと数年前に出会い、共に歩む妻・裕美さん。裕美さんも農業に長年携わる経歴の持ち主。そんなふたりが朝倉で見つけた、新しい暮らしのかたちとは——。
※ 詳しいインタビュー記事は、朝倉市が発行するシティプロモーションマガジン「コンネアサクラ」vol.4 に掲載しています。ぜひご覧ください!
朝倉との出会いについて教えてください。
良輔さん(以下「良」):もともと隣の大刀洗町の生まれで、朝倉の高校にも通っていました。大きな転機は、2017年7月の九州北部豪雨です。発災直後から「杷木復興支援ベース」を拠点に、ボランティアとして住宅の土砂撤去や炊き出しなどに参加しました。当時は福岡市の会計事務所に勤めていて、毎週のように朝倉に通っていましたね。支援を通して地元の方との関係を築く中で、ある日、柿の農地を引き継ぐ話をいただき、思い切って仕事を辞めて農業の道へ進むことを決意しました。
農業は、まったくのゼロからのスタートでした。当時は、新規就農で年150万円の支援を5年間受けることができた(※現在は最大3年間)ので、それを収入の柱に、地元のおじいちゃんやおばあちゃんに教えてもらいながら始めましたね。「朝倉の力になりたい」という思いも強くて、就農と同じ頃、「一般社団法人Camp」も設立しました。
裕美さん(以下「裕」):以前はマーケティング会社で働いていました。でも、他人が作ったものを広めても「何も残っていかないな」と感じていて…。自社の商品開発に関わったとき、モノづくりの裏側まで見えてしまって面白くなくなったんです。そこから「原料から自分で作るってどうだろう」と思い、農業に注目するようになりました。
耕作放棄地の開墾から始めて、自分でトラクターに乗ったり(笑)。契約栽培のマッチングサービスを始めたり、6次化のアドバイザーとして、大刀洗町や糸島など福岡県内のあちこちで10年ほど活動してきました。
ある日、友人と秋月に遊びに行ったときに「知り合いの柿農家さんのとこに寄ろう」と言われて、連れて行かれたのが彼の農園でした。そこで彼と出会って、「援農」を通じて意気投合したんです。
「援農」とはどんな取り組みですか?
良:援農は、繁忙期に地域の人や学生、企業の方が手伝いに来てくれる“みんなで作る農業"の仕組みです。農業を「体験」ではなく「生業」として捉え、報酬は「お金」ではなく、ご飯やお土産などの「気持ち」で返す。農業の現場を知ってもらい、朝倉の魅力を感じてもらうことを大切にしています。
裕:「援農」を通じて人が集まり、地域が元気になる。そんな循環をつくろうとしているんです。
良:大学のボランティアサークルとのつながりもあって、農園も盛り上がっています。昨年からは、不登校や発達障害のあるお子さんの農業ボランティアも受け入れるようになりました。その時にできそうな作業を設定して、イベント出展のお手伝いなどもお願いしています。
朝倉での暮らしはいかがですか?
良:現場が近くなったのは大きいです。地元のつながりもさらに強くなって「大変だろうけど頑張って」と応援してもらえることが増えました。イノシシやシカが身近にいるのは、ちょっとしたギャップですね。
裕:四季折々のにおいが感じられるし、農作業の後に温泉に入れるのが何よりの感動ポイントですね。道の駅が近いのもポイント。朝倉は土も良いし、水も良いし、農のポテンシャルは本当にどこにも負けていないと思いますよ!
生活に必要なお店はそろっているので「何とかなる」という気持ちで来ましたけど、いざ住んでみると、コンビニや愛用していたスーパーが徒歩圏内にないのはちょっと不便に感じますね(笑)。その分まとめ買いをしていますが、このまちの攻略法を誰かもっと教えてほしいです(笑)。
-今後の目標について教えてください。
良:「援農」をもっと広めたいです。「観光農園」にも力を入れて、この農園をもっとたくさんの人が農に関われる場所にしていきたいです。それと、お互いの経験を活かして、会計や原価計算、6次化などの相談も受けられるような自分たちのスタイルを確立していきたいですね。
裕:2人で一緒にやることで、これからもっと面白いことができるんじゃないかってワクワクしています。楽しいことやみんなで分け合えるようなことを考えるのが大好きで。「朝倉を代表するようなモノを作りたいね」ってよく話しています。例えば、朝倉レモン、朝倉レモネード。朝倉のみんなで盛り上がっていけたらうれしいです。
最後に、移住を考えている方にメッセージをお願いします。
良・裕:移住を考えている人には、「“行けば何とかなる”は難しい」って伝えたいですね。まず、その地域にちゃんと通って、体験して、地域性を知ることが大事。自分の売り方やライフスタイルを構築して移住した方が良いと思います。朝倉はお試し居住もあるので、そういう制度を活用するのもおすすめです。私たちも移住者だからこそ、朝倉のことを客観的に伝えられると思います。地域を本当の意味で知る、そんなきっかけを届けられる存在になりたいですね。
「重松農園」は 杷木地域を中心に「援農」を実践する地域密着型の農園。こだわりは、土壌分析に基づいた土づくり。安全・安心でおいしい作物を育てるため、日々研究を重ねています。
「柿のドライチップ」「柿の葉茶」などの6次化商品も展開し、オンラインショップで全国へ販売中。イベントやマルシェにも積極的に出展しています。
農業体験や商品についての問い合わせも気軽にでき、「援農」を広く伝える拠点、そして朝倉の魅力を広く伝える拠点として進化を続けています。